十九世紀末から二十世紀初頭のアイルランドを舞台に、ジェイムズ・ジョイスの半生を描く自伝的教養小説『若き日の芸術家の肖像』。
小説家となることを決意するまでのジョイスの伝記的事実と、彼が生まれ育った時代のアイルランドの歴史的・政治的・宗教的・文化的背景が反映されているため、読者の多くは主人公スティーヴン・デダラスの半生を通じて作家と作品舞台に関するイメージを容易に醸成することができるだろう。
この意味で、『肖像』は、ジョイス文学への「扉」であり、出版からおよそ百年余りを隔てた現在でも、私たちに多くのことを示唆してくれる。
ジョイスは、ヨーロッパに亡命しながらも、生涯、植民地アイルランドという周縁から世界の意味を問い続けた作家だったのである。
本書はジョイス研究の最先端にいる研究者たちによる12の論考である。
まえがき
『若き日の芸術家の肖像』の鳥表象と芸術家像の再考(岩下いずみ)
クランリーの人物造形(小田井勝彦)
フィクションと伝記事実から読み解くジョイスの階級意識(河原真也)
スティーヴンと堕罪の甘美(吉川信)
「心とは何か」を学ぶこと(小林広直)
『若き日の芸術家の肖像』(高橋渡)
傷ついたジャガイモ(田多良俊樹)
知識偏重なスティーヴンの失敗(田中恵理)
ジョイスを読むベケット(道木一弘)
ジョイスの〈ベヒーモス〉(南谷奉良)
"O,he'll remember all this when he grows up"(Brian Fox)
Education:The'Jesuit' Artist and the Specled'Bard'(Eishiro Ito)
あとがき
執筆者紹介
索引