今日、病いと身体をめぐる議論が活発であるのは、これらのテーマが、ともに、ギリシア・ローマの 古典文学やイタリアの中世文学以来の重要な「トポス」でありながら、このトポスとして持っている 慣習性を問題視し、その意味を新鮮な観点から読み直そうとする動機にもとづいたものと考えられよう。 …病いは、基本的には医学的な事実そのもの、肉体の病気でありながら、その一方で、イメージ化され、 隠愉として用いられて、文学者のみならず一般の人々の意識をも執拗に支配してきた。 …こうした次元での身体の描写、さらには身体の持つ自然性への固執は、登場人物の造型や 演技・動作などの文学世界の構築に深く関わっており、その症例を数多く挙げるのは難しくない。 …編者「まえがき」より
1.国家・身体・民族
亡命者たちとバラバラ死体−『オルノーコ』から『ロビンソン・クルーソー』へ−(服部典之)
リリパットの国家身体−『ガリバー旅行記』における近代古代論争−(武内正美)
有機休としての国家と女性の肉体−スコットの『ミドロジアンの心臓』−(米本弘一)
アメリカのユダヤ人、その生と死−『ラヴェルスタイン』における病い、身体、自己−(片渕悦久)
「崇高」という病い−「享楽」の『コズモポリス』横断−(渡辺克昭)
2.科学・身体・神経
『終わりよけれぱすべてよし』と精神的不調−『二人の貴公子』を照射して−(三浦誉史加)
クラリッサの死因−メランコリーとショックと神経と−(仙葉豊)
理性、汎神論、そして再発見される身体−ウィリアム・ワーズワス−(小口ー郎)
観相学から骨相学へ−『フランケンシュタイン』における身体性−(小川公代)
ヴァージニア・ウルフの病気のヴィジョン−セプティマスと戦争神経症−(太田素子)
3.表象・身体・狂気
ヴィクトリア朝における女性の衣服と身体−コルセットをめぐって−(西村美保)
リアム・オフラハティーの小説世界−存在の矛盾そして狂気−(春木孝子)
現代詩に見る身体モチーフ−モダニズムからポストモダニズムヘ−(白川計子)
研ぎ澄まされた聴覚−『しあわせな日々』におけるウィニーの腹話術的声の身体−(垣口由香)
難病の視覚的表象−戯曲、映画、テレビの中のジョゼフ・メリック−(山田雄三)